このほど、敬愛する建築エコノミストの森山高至さんの著書が出版されました。
『非常識な建築業界-「どや建築」という病』 光文社新書
建築家が過度に意匠性を優先した結果、建物の使用者に傷害事故が発生するなどしても、その建築家は業界的には「無罪」です。彼の建築を評価する基準は造形・芸術・空間にしかないからです。
けれど、建築家本人は私たちが心配するほど気にしてはいません。なぜなら、業界内における建築家の評価は性能面の瑕疵などを評価の対象から外したところで行われるのが一般的だからです。多少 雨漏りがするとか、夏暑くて冬寒いとか、導線が複雑で使いづらいとか、その手の機能上の欠点は、業界内の評価基準ではお咎めなしなのです。(本文より引用)
大学教育の現場でも80年代後半には、建築に対する評価基準が「工学」から「芸術・アート」の枠組みに移行し、メディアも「芸術・アート」としての建築を好んで採りあげます。結果、野心的な建築家は「どや建築」を目指すことになるのですが、その多くが欠陥の危険性を孕んでいます。
国立競技場問題以来、テレビで見かける機会が多くなりましたが、そもそも森山さんは、物事に批判的なスタンスをとる方ではありません。むしろ厳しい状況の続く建設業や設計事務所に対して“頑張ろうぜ!”と応援し、業界以外の人に向けて分りやすく業界の事情を説明する活動をしてきた人です。
その森山さんが苦言を呈しなければならないほど、今の建築業界を取り巻く環境は看過できない状況にあるようです。
閉鎖的な建築業界を変えていくには、一般の方の建築の諸問題に対する関心や意識の高まりです。
この本は、その建築の素人にも分りやすく書かれています。一読の価値あり。良書です。