大工をしていた祖父の家は、江戸時代に建てられた古民家です。打合せで伺った先に古民家があったりすると、祖父の家に思いが至り、「できることなら残しておきたいなぁ・・」と思ってしまいます。
新築の多い私たちの事務所でも、古民家リフォームのご相談をいただくことがあります。古民家リフォームのネックはズバリ予算です。
昔の住まいは現代と比べて建物が大きいことから、費用が嵩んでしまいます。私たちのような設計事務所に依頼するリフォームは、間取りの変更、耐震性や断熱性の向上を求めてのことですから、お客様も少なくない予算をお考えの上で相談に臨まれます。それでも、想定の予算から大きく超えてしまうことがほとんどです。
蓋を開けたら損傷が激しかったということもありますので、古民家リフォームの時には新築と同等以上の予算をお考えいただいた上で計画をスタートするようにしています。
昔の建物には基礎がありません。玉石の上に建物を載せる「石場建て」という構法です。
伝統構法は、建物の構造体を柔軟にすることで、地震時の大きなエネルギーを吸収し倒壊を防ぐ工法です。現代の言葉では「免震」「制震」といった説明が近いと思います。
工匠たちの経験・知恵・知識・勘による部分が多く、仕様によって基準を定めることの困難な構法です。今日、伝統構法で建築するときは「適合判定」という個別の構造審査が必要となります。特殊な構造計算が必要なことから、この伝統構法での建築は極めて稀となっています。
それに対して「在来軸組工法」は西洋的な建築技術を背景に戦後普及した工法で、現在、住宅建築で広く採用されています。「基礎と柱の緊結」「耐力壁の設置」により構造体の剛性を確保します。建物を頑丈にすることで地震・台風等の外力に耐える工法です。
同じ木造であっても、伝統構法と在来木造工法とでは構造的な設計思想が大きく異なります。
<玉石基礎柱脚の補強方法 :建築知識(2011年3月号)>
基本的に増築を伴うリフォームは、現在の建築基準法に適合させる必要があります(防火指定の有無、増築面積により条件が変わります)。
伝統構法の増築リフォームには「限界耐力計算」が必要となり、申請上の構造審査が煩雑になります。構造計算を行うために既存建物の精密な調査が必須です。改修費用の他に、構造計算費、構造判定申請費用、既存建物の調査費用などの準備費用が大きなことから、ハードルの高い選択となります。
在来工法で耐震改修を進める方法もありますが、こちらも「基礎の補強」「基礎と柱の緊結」「耐力壁の設置」「構造金物による補強」など大掛かりな工事が必要です。構造計算や申請は一般的な住宅と変わりませんから、実務的には選択しやすい方法です。
<古い民家をジャッキアプして、現行基準の基礎を施工した事例。特殊な計算は不要で工事可能です。>
どちらにしても大きな費用が必要となりますから、既存の建物に文化的価値があるときや、今まで過ごしてきた家への特段の思いがある時に限られる選択です。
増築を伴わないリフォームの場合、確認申請は不要です。
現行の建築基準に適合させなくて済むことから、耐震レベルもお客様と相談しながら決めることになります。人気テレビ番組「劇的ビフォーアフター」のリフォームはこの範囲にとどめています。
伝統構法の建物でも、バランスを見ながら構造補強を施すことが可能です。もちろん費用を掛けて、既存建物の精密な調査と限界耐力計算で構造解析を行った上で改修設計をすることも出来ますし、経験を基にほどほどの補強で済ませることも出来ます。
<高橋是清邸の耐震補強の例(格子状の欄間と耐力壁)>
伝統構法の建物について、ひとつ知っておいていただきたいことがあります。
役所の実施する無料耐震診断では、どんなに耐震性に優れた建物であっても想定された仕様で無ければ耐震診断の評価はゼロとされてしまいます。耐震診断の結果=(イコール)耐震性が無いわけではありませんので、誤解しないようにして欲しいところです。
ただし、伝統構法による建物は材料も大きさも仕口(接合部分の加工)もまちまちですので、伝統構法すなわち安全というわけでもありません。
先祖から代々受け継がれてきた家にありがちなことですが、2階建と平屋がつながる建物の、そのどちらかだけを耐震リフォームしたいというご相談を受けることがあります。
安易に片方だけを補強してしまうと、地震時に揺れの異なる棟が接することになり、接合部分で大きな損傷を受ける懸念があります。
長屋などで、真ん中部分の住戸を耐震補強したとすると、そこに地震の荷重が集中することになり、かえって補強した部分が損傷することがあります。
耐震リフォームをするときは、全体的にバランスよく補強を施すか、地震時の異なる揺れの影響を受けないように建物を切り離して別棟にするか、いずれかの方法で改修したいところです。
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