先日の講習会で愛知県の職員の方から「県内の実績があまりに少ないので、もっとご活用ください!」 と、ある制度についての説明がありました。制度制定から40年以上経過したにも関わらず、名古屋市を除いた実績はわずかに5件。 東三河ではひとつの実績もないそうです。
その制度とは「総合設計制度」といわれるもの。敷地の一部を空き地として市民に開放する代わりに「容積率の割り増し」や「斜線制限の緩和」 を受けられる制度です。この制度は市街地の良好な環境整備を目的として制定されましたので、敷地にゆとりのある豊橋では 是が非でも採用したいといったものではありません。
実は私、この「総合設計制度」にどっぷり漬かっていた時期があります。
今をさかのぼること25年前。 バブルは最終段階に突入。ビックプロジェクト満載の大阪はバブルに浮かれまくっておりました。私の居た設計事務所も大きな仕事をたくさん抱えていた時期です。
先輩や同期のスタッフはいくつも物件を抱えてましたが、 飛びぬけて若かった私は、夏の暑い頃になっても任せていただける物件がないままでした。そんな時期に飛び込んだのが、事務所初となる「超高層」のプロジェクト。 他のスタッフが手一杯でしたので、新人の私が担当することになったのです。
設計チーフから担当を告げられたときは「そんなものかな・・」と、安易に引き受けてしまうのですが 今から考えればぞっとする話です。
プロジェクトの内容がハードでして 住宅程度の敷地(206坪)に総合設計を使って広告塔となる超高層ビルを、 というのがクライアント企業からのご依頼。206坪の敷地といえば、「北設の家」と概ね同じ面積。高層ビルの敷地としては狭小です。
この敷地に公開空地とマンションを設けることで、「600%の法定容積率が900%までの緩和」と「斜線制限(隣地斜線)の緩和」を受けることで超高層を実現しようという計画でした。(都心にマンションを設けると、容積がさらに加算されます)
ところが・・・
計画をまとめて大阪市役所へ事前協議に行くと 「何なのこれは!こんなの持って来んなや。」とけんもほろろ。審査課と指導課を中心に、消防、環境事業局、高速道路公団、路政課、交通課、水道、下水道・・・ 事前協議に赴く先々で、様々な規定に引っかかってしまい、計画が成り立たないのでは・・・ と、ため息ばかりの日を過ごすのです。
秋口には、附室の広さに行き詰まり「いよいよダメか・・・」 市役所前を流れる堂島川の水面を小一時間眺めていたことも。
住宅規模の敷地に大規模建築を建てようというのが無理な計画なのですが、 受けてしまった以上、ひとつひとつ問題をクリアしいくしか道はありません。意を決して、関係部署めぐりの日々を送ります。
ヘリコプターからの救助活動用の「ホバーリングスペース」を求められます。ホバーリングスペース周りの突起物は看板扱いなのですが、その高さはヘリコプターの進入を考慮して決まり、 許された高さの中でデザイン出来るように何度も協議を重ねました。
本来、グランドフロアーに必要な中央管理室を協議の末、2階に設置。 螺旋状の屋外階段から消防隊が中央管理室に進入することでクリア。
敷地内でのゴミ収集が必要なのですが、大規模建築ではないということにしていただき 敷地前の路上収集認めて貰います。避難経路の問題、看板の扱い、小さなことから大きなことまで、 問題をひとつひとつ解決していきます。
安易に妥協すれば簡単なことも、所長のデザインポリシーから外れた計画は許されません。約4ヶ月の間、ひたすら関係部署や協力業者と協議を繰り返し、 歳の瀬を迎える頃に、なんとかプロジェクトの見通しが付くところまでこぎつけます。
年が明けて、2月の「防災評定」を皮切りに、「構造評定」「建築審査会(総合設計)」をクリア。 8月に実施設計をまとめて、10月末「確認申請」がおりるのですが、その2週間後・・・ このクライアント企業が倒産してしまいます。
計画は幻となってしましましたが、私自身はこの制度を熟知しております。 活用したい方はお申し出ください。