前回の続き。約款のポイントについて説明いたします。
● 一括委任・一括請負
独自形式でよく見受けられるのが、建設業法で原則禁止されている一括下請け(丸投げ)を承諾する項目です。建設業法が一括下請け(丸投げ)を禁止すのは、以下の目的があります。
○ 不当な中間搾取を抑制。実際に施工する業者(下請け)の経営が圧迫され、建築主が不当な不利益を被る事態を防止すること。
○ 施工責任を明確にする。施工上の責任の所在を明確にすることにより、手抜工事の防止を図ること。
○ 業界の健全な発展を図る。自らは何も工事を行わず、手数料を搾取するブローカー的建設業者の排除し、技術に見合った報酬を施工業者に支払うことで、建設業界が健全で信頼される職能団体となること。
要するに、「ごまかさずに支払われた金額に見合った建物を作りなさい!」ということです。建設業法と約款の例を挙げておきますので、比較してください。
○ 建設業法 第22条 (一括下請負の禁止) 1 建設業者は、その請け負った建設工事を、如何なる方法をもってするを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。 2 建設業を営む者は建設業者から当該建設業者の請け負った建設工事を一括して請け負ってはならない。 3 請負者があらかじめ建築主の書面による承諾を得た場合には、適用しない。
○ 民間(旧四会)連合会協定工事請負契約約款の例 第5条 (一括委任・一括請負の禁止) 乙(請負者)は、あらかじめ発注者の書面による承諾なければ、工事の全部もしくはその主たる部分または他の部分から独立して機能を発揮する工作物の工事を一括して、第三者に請負わせることもしくは委任することはできない。
○ ハウスメーカーの約款の例 第3条 (一括委任・一括請負) 乙(請負者)は、乙(請負者)の責任において、工事の全部または大部分を一括して乙(請負者)の指定する者に委 任し、または請負わせることができるものとし、甲(建築主)はあらかじめこれを承諾した。
○ 建築条件付き不動産の約款の例 第3条 (下請) 本建築は乙(請負者)の下請けとして(株)○○工務店が施工を行なうことを、甲(建築主)は承諾した。
● 分離発注について
分離発注形式などでは、それを代行する業者と契約することになりますが、工務店との契約と異なっているため、独自形式の契約を結ぶことになります。民間(旧四会)連合会の約款をベースにしてアレンジしたものが多いですが、乙(請負者)が負担すべき内容の事柄が発生した場合に、それを誰がどのように対処するのかに注意してください。
特に『適合しない施工』や『瑕疵(欠陥、施工ミス)の担保』・『第三者損害』などの条項が挙げられますが、専門工事業者に責任を取らせるケースと損害保険に加入するケースなどがあります。
○ 専門工事業者の場合 :大手の分離発注代行業社でも専門工事会社に全て責任を押し付ける事例もあり、無責任の印象を拭えることはできません。このような内容であれば、強く約款の訂正を求めるか契約をしないことが賢明です。
○ 損害保険会社の場合 :分離発注代行業社と建築主が工事費の1%前後の金額を保険料として負担し、万一の不具合や瑕疵に備える方法です。請負者とは異なり、分離発注業者に施工責任の能力があるはずもなく、かといって専門工事業者にのみ責任を押し付けるのは無責任とする良心的な考え方からこのような制度にしたのだと思います。施工した業者がいつ無くなってしまうか分かりませんので、そういった意味でも良い制度だと思います。
● 建築条件付物件の約款
イチイチ説明するのが面倒なほど酷い内容。 独自契約とはこういうものなのか? 銀行の約款などにもあてはまりますが、『どでも同じでこういうものです』と思わせてしまえば、圧倒的に業者有利。
● 日本弁護士連合会 「消費者のための家づくりモデル約款」 (民事法研究会) 定価1000円
日本弁護士連合会がより建築主側に立った視点から「消費者のための家づくりモデル約款」をまとめています。 その目指すところは『注文者=社会的弱者』『請負人=社会的強者』という実情を直視し、両者を対等・公平な関係としようとするものです。
ただし、究極の理想論であり、『現場監督の掛け持ち禁止』などの一般住宅には不向きな条項などもあります。ですのので、この本を参考にしながら、自分にとって必要な条項を契約書に反映するといった使い方とがいいのではないかと思います。