土曜日、田原への道すがら、ふらりと「老津の家」へ寄ってみました。
クライアントさまデザインの外構がとてもいい感じ。 季節が良くなったら竣工写真を撮影させていただこうと思います。
さて、今日は建築は万能ではないというお話。
何かを得ようとすれば、何かを諦めなければならないことも出てまいります。 使い勝手、性能、コスト、デザイン、耐久性・・・・ 何を重視して、その為に何を譲るのか。お客様の価値観や置かれた状況によりまちまちで、 それらを秤に掛けてクライアントが判断することになります。
例えば、外部に面する建具を木製で製作することについて。 玄関や窓の木製建具は見栄えが良いものですから、それを希望される方がいらっしゃいます。 デザイン的には賛成したいところですが、諸手を挙げてというわけにはまいりません。
建具屋さんが自然の木を使って制作しますので、既製品のように隙間無くというのは難しいです。 引渡し時の時点でさえ気密性に劣るのですが、住み暮らすうちには経年変化による狂いが生じます。それらの欠点を説明した上でクライアントの判断を仰ぐことになります。
「老津の家」は、木製建具を採用していますが、 デッキに面した大開口をフルーオープンでというのが当初からの要望でした。
このサイズでフルオープンとなると既製サッシでは対応できません。
・既製品の範囲に収まるように開口寸法を小さくする(開放感をあきらめる)
・窓の形状を変える(引き分け戸のフルオープンをやめて4枚引き違い)
・木製の建具を制作する(気密性能をあきらめる)
のいずれかでの対応となります。
「老津の家」のように大開口を木製で制作となると、台風時には隙間から雨が振り込むことになります。「台風時には雑巾を窓下に並べてください。」と説明すると、たいていの方は諦めてくださるのですが、 「老津の家」のお客様はそれを承知の上で「フルオープンの開放感」にこだわりたいとのこと。採用にいたります。
実際、台風時には隙間から雨が振り込むことになるのですが、雑巾を置いて対応していただいております。
それを可しとするか、不可とするかはクライアントさま次第。可しとするほど冒険の余地が広がり、建築は面白くなります。 建築雑誌に掲載されるのは、その延長線上にあるもの。
デザインのために他の要素を潔く切り捨てた住宅を見ると、 クライアントの覚悟と度胸に感じ入ってしまいます。